monologue : Same Old Story.

Same Old Story

差別撤廃

政府が女性差別の排除を掲げてから、どれくらいたつのだろう。十年か二十年か、あるいはもっとか。昨日や今日始まったものでないことは確かだ。ふと電車の中でそんなことを考える。

『現代社会におけるジェンダーとは』

週刊誌の吊り広告にもそんな見出しがある。ワイドショーなんかでもたまにネタになるくらいだから、ある程度世間も興味があるのかも知れない。

男性が女性を、女性が男性を、異性だからという理由だけで "差別" してはならない、そんな時代なのだ。

「あの」

だから僕は、勇気を持って訴えかけることにした。

「あの」
「だからー、マジだって、もう本当に……何? 何か用?」

僕の隣に立っていた若い女性は、僕が呼び掛けると、いかにも不機嫌そうに携帯の通話口を手でおおった。

「その、さっきから鞄痛いんですけど」

彼女が肘からさげているブランド物の鞄が、僕の脇腹に当たり続けている。今頃小さなアザでもできているんじゃないだろうか。

「すみません」

彼女は鞄を引っ込めると、さっきより不機嫌そうな表情で言った。

(……まあいいか、一応謝られたんだし)

なんとなく釈然としないけれど、僕はそれ以上何も言わなかった。そして彼女は、また携帯電話に夢中になった。

「そー、もう最悪。今電車なんだけどー、なんか鞄触ってくる人がいんのー。もう何? って感じ、最悪」

当て付けるように大声で話す彼女を横目で見て、ため息をつく。

(女性の方が弱いだなんて、最初に言い出したのは誰なんだか)

さっきの吊り広告に、もう一度目をやる。

『たくましくなる女性、弱くなる男性』
「本当気持ち悪い、あたしの鞄に何してるの、って感じ」
『女性の隠された強さに目を向けて』
「また何か言ってきたらチカンだって騒いでやる。……いいんだって、本当かどうかなんてわかんないんだから」

電車が駅に着き、扉が開く。

「あ、降ります」

隣の彼女が声を張り上げ扉に向かう。またいかにも当て付けがましく、僕の足をヒールで踏む。

『真の平等とは』
「ちょっと」

僕の呼び掛けに彼女の相当不機嫌な顔が振り向き、次の瞬間、その顎に僕の右拳が勢いよく当たる。思ったより鈍い音がして、彼女が倒れ込む。

「男女同権なんだ、悪く思わないでくれよ」

Fin.

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