monologue : Same Old Story.

Same Old Story

充電

「ちょっと、もう残り少ないじゃない」

僕の携帯電話をいじっていた彼女が、ふいに責め立てるような口ぶりで言った。

「今朝充電してこなかったの? もう電池切れそうじゃないの」

彼女の話し方はまるで僕に責任を押し付けようとしているみたいで、君がさんざんアプリなんかで遊ばなければ、少なくともあと三時間は何事もなかっただろうに、という僕の考えを口にできないように釘刺しをしているようでもあった。

「ほら、もう残りひとつしかないわ」

相変わらず彼女の手の中にある僕の携帯電話は、三段階ある残電池量の表示の、一番少ない段階だった。

「君が遊びすぎたんじゃないのか? 今朝家を出るときには」
「気付かないうちに減ってたのよ、きっと。あれだけ遊んだくらいで、残りがこれだけになるわけないじゃない」
「でも」
「コンビニかどこかで充電器売ってるかしら? 乾電池で充電できるような」

コンビニを探してか、彼女が通りに沿って辺りを見回す。

「いいよ今日一日くらい、どうしても連絡とらなきゃいけない相手がいるわけでも」
「何言ってるのよ、緊急の連絡なんていつ入ってくるかわからないじゃない」

彼女は交差点の向こうにあるコンビニを指差して、ほらあそこに、と言った。

「そりゃそうだけど、だからって今すぐ」
「もう、わかってないのね」

呆れ切ったような表情でため息をつき、彼女は小言を言い始めた。

「あなた、いつも時計持ち歩かないでしょう? 携帯電話の電池が切れたら時間もわからないじゃないの」
「そんなこと」
「事故でも起こったらどうするの? 警察には連絡できても、家族や友人の緊急連絡先までは頭に入ってないでしょう?」
「そりゃまあ」
「急に具合が悪くなったら? 一歩も歩けないのに救急車が呼べる?」
「わかった、わかったってば」

彼女の発言を制するように手をかざし、携帯電話を受け取ると僕は交差点に向かった。彼女が携帯電話を持つ前の生活を想像すると何だか滑稽だったけれど、何も言わないことにした。

交差点の信号が赤になり、僕は信号機の手前で立ち止まる。ふと携帯電話に目をやると、残りひとつの電池が点滅して、やがてそれも消えた。

「残念、手遅れ」

冗談半分に言いながら振り返ると、彼女の姿はどこにもなかった。

「あれ」

そのことに気付くのとほぼ同時に、辺りは突然真っ暗になり、何も見えなくなった。

「……あれ?」

電池の切れた携帯電話の画面は真っ暗で、僕は携帯電話の画面と同じような暗闇の中に、ただ呆然と立ち尽くすのみだった。

Fin.

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